夕暮れの興宮の町を一人で歩いていく。
……今日はあらゆる意味で色んな事がありすぎた。
頭を冷やそう。家に帰ってゆっくりとしよう………。
何も考えず、ひたすら歩いているうちに…ふと公園が目に入ってきた。
「………少し、休憩しよう。」
そう思いベンチにへと足を向ける。
……ベンチに鞄を置いて、設置されている自動販売機にお金を入れる。
「………………何だか疲れたよ。」
そう一人ごちて、…そんな自分に苦笑する。
…無人の公園にひぐらしの音がうるさいくらいに響き渡る。
その音を掻き消したのは無粋な呼び鈴の音。
…………私ってどこまで運が悪いんだろうな。
それは奴らが、公園の前を自転車で通り過ぎる音だった。
「あッ……………おい、あれ!!竜宮だろ!」
奴らの一人が、目ざとく私を見つけ出す。
………ハハッ、…もっと悪い事に、あの何を喋ってるのか分からない奴らも一緒だよ。
全く、……今日は何て日なんだろう。
次々と奴らは公園の前に自転車や単車を止めていく。
ひぃ、ふぅ、みぃ……どう数えても六人は居るな。
私はリュックを背負って、臨戦態勢を整える。
………あ、やっぱり明らかにこっちに向かってきてるな。
ははは、どうなるんだろう。私。
「んだてめンなろぉおおぉおおおぉ!!」
開口一番、怒鳴り散らしてくれたのだが、何を言ってるのか聞き取れない。
こいつらは……不思議と怖くないんだよな。…やっぱりあんまり素性を知らないからかな。
「…良くも散々、やってくれたよな?はっ、あの威勢の良い嬢ちゃんも居ないのか。」
「おっと、この公園は俺らを除いて無人。助けを求めても誰も助けてくれないぜ?」
「なぁ、……痛くしねぇから遊ぼうじゃねぇか。」
……こいつらの場合は、何を言ってるのか聞き取れる分だけに余計な恐怖という感情が沸いてくる。
「冗談じゃないよ……。」
そう言いつつ後ろの森へと後ずさる。
………しかし、当然と言うか何と言うか、やつらもじりじり差をつめてくる。
すぐにドン、っと音がして私の背中が木に当たった。
これ以上は……時間を引き延ばすこともできないだろう。
「もう、逃げ場はないぜ…?おとなしく観念しな。」
低俗な笑いが森中に響く。
「くッ…………」
一日に二度も同じ屈辱を味合わされるなんて。
本当になんて私は『無力』なんだ………。
悔しくて、情けなくて………唇を力いっぱい噛む。
あれ……でも、私は本当に『無力』なのか?
その前に私は自分が無力だと勝手に決め付けてないか?
……………いや、待てよ。さっきと今とでは全然違うじゃないか。
そうだ……違うよ、今は、全然違う!!!!
…………………私は『無力』じゃない。
世界が奇妙な形へグニャリと歪んでいく。
「くッ、……くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく」
「な、……何笑ってるんだこいつ…………」
「へっ、へへっ、遂に頭おかしくなったか……それなら逆に好都合だ。」
「………いや、待て、何か本格的に様子がおかしいぜ……?!」
さっきまでの無力な自分が可笑しくてたまらない。
そうだ、そうだ、こんな奴ら1500秒……いや、1000秒で殺せるよ。
…………私の目標はあくまでも圭一。
こんな取るに足らない障害なんかに手を煩わせてる暇なんて無い!!!!!
「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく」
「お、おい……何か、やべぇって………笑いが止まらねぇよ?!」
「な……、頭のネジが外れちまったのか?!」
ただ吼えるだけしか能が無い屑は死ねば良いよ!!!
……お望みならば私が直接手を下してあげるけどねッ!!!!
「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく」
私はリュックから『あれ』を取り出す。
夕焼けを映して紅くギラリと光るそれは私の戦意をさらに向上させるに足りるものだった。
「な………な、鉈……?!お、おいマジでやべぇって!!!」
「ぐっ………ぐぅッ…………洒落になんねぇ……」
己の無力さを嘆け、わめけ、………そして、…私に殺されろ!!!!
「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくひゃはははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははは!!!!!!!!!!!」
鉈を地面に向けて思い切り叩きつけるッ!!!!!
………奴らは泣き言を言いながら後ずさる。
さぁさぁ………この程度の威圧に気おされてる様じゃ話にもならないよ?
私を侮辱して蔑んだ償いはきっちりと償ってもらうからねッ!!!!!!!!
「ここに居るのは七人。踊りを踊るには十分だッ!
さぁ、さぁ、最初に私と一緒に踊ってくれるのは誰かなぁッ?!」
そう言いながら、私は鉈を振り回すッ!
………ははははハハハハッ!!!!もう逃げ腰じゃないか!!!!
くずがッ!!!!クズがッ!!!!!!クズガッ!!!!!!!!!
「………つまらないよ、一緒に遊ぶって言ったのはどっちの方だったっけ?
それなら私の方からお相手させてもらうよぉぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!!!!」
私は全力で奴らの後ろを追いかけるッ!!!!!
そうだっ!!!!皆殺しだッ!!!!!これは祭りの前の余興なんだッ!!!!!
「ははははひゃはははははははははははははははははははッ!!!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!
どいつもこいつも私の邪魔をしやがって!!!!!!!!!!!!!
そんなクズは死ねばいいんだよ!!!!!ははははははははははははは!!!!!」
紅い空の色で染まる公園に私の声が響き渡る!!!!!
あぁ、何て万能感なんだろう………!!!!!!
体中にゾクゾクと痺れが伝わっていくのが分かるッ!!!!!
「うわぁぁぁあああぁあぁあ、こっち来るなよ!!!!!」
……それは出来ない相談だな。
だってお前らは私にそれをされるのに十分すぎるくらいな理由があるんだからさ。
あっ、こいつ……私の射程距離に入った。
やろうか、やっちゃおうか、くくくくくくくくくく、やるしかないよねッ!
頭に向かって、思いっきり鉈を振り下ろす!!!!
………間一髪の所でかわされる。
くそッ!!!!目標は動いてるんだ!冷静になれ!!!冷静に!!!!!!!
「ほ、ほほ本気でこいつ、俺の頭に向かって………?!
ううう、う、うわぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
そうだ、お前らの命なんて私の手の平に転がってるんだよ!
死ねっ……死ねッ………死ねッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「は、早く自転車の所まで逃げろッ!ま、マジで殺される!!!!!」
「どど、どぎゃんしたこった!、おいがさきね!!!」
「せ、先輩も後輩も関係ねぇよ!!!早く、逃げろ!!!!」
「ぎゃああああぁぁぁああああああ殺される殺される殺される殺される殺される殺される!!!!!」
「ぱぱぱ、パニックになるな!!!!!早く落ち着け!!!!!」
「うっ、うるせぇよ!!?お、お前に指図されたくねぇ!!!!!!」
「……なっ、?!お前、何様のつもりなんだよ!?」
くくくくくくくくくくくく、今度は仲間割れ?
そんな、くだらない団結で私に立ち向かおうとしてたんだね?
……傑作だよ。本当に死んで然るべき救いの無い奴らだ!!!!!!
「ひゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁッ、死んだら良いんだよッ!!!!!
お前らは黙って血を流しとけばいいよっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわっ、こっち来るなって!!!!……おい、あいつを狙え!あいつが言い出したんだ!」
「なっ、ななな、嘘言うなって!!!!!!」
ほん……っとに醜いなぁ……。
あそこまで強気だったお前らが、どうやったらここまで醜悪になれるの…?
正直がっかりしたよ…………お前らなんて殺す価値すらない。
余りの馬鹿馬鹿しさに殺意すら薄れてくる。
ここでこいつらに全力を使う必要ってないんじゃないか?
圭一の時にまで殺意をもっと、もーっと深くしといた方が有意義なんじゃないかな?
そうだな………ここで使い果たすべきものじゃないよ。
お前らは私の寛大な処置に死ぬまで感謝すべきだ。
……あぁ、私って何て優しい心を持っているんだろうか。
私はピタッ………と動きを止めた。
その様子を見て取った彼らは必死に自転車にまたがり、
もうすっかり暗くなった街へと消えていった………。
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